―初回スタッフの不安を、成長の一歩に変える津川さんの工夫とまなざし―

2021年入社、関西フィールドサポート部 津川 洋子
趣味はベランダ菜園とカラオケ。子どもたちとカラオケに行くのが休日の楽しみで、
十八番はKiroroの「未来へ」や中島みゆきの「糸」
―入社のキッカケを教えてください
きっかけはコロナ禍で前職が閉鎖となり、自宅で過ごす期間が続いたことでした。そんな中、夫から「体を動かした方がいいよ」と派遣勤務を勧められたのが始まりで、最初に偶然登録したのが、エントリーでした。
最初の現場では、3カ月ほど勤務した後に直接雇用を打診されたこともありましたが、自分の希望と合わず、現場を離れることに。その後、初めてフィールドディレクター(以下FD)の方と出会い、現場での丁寧なサポートに感動し、安心して働けると感じました。
しばらくして支店から「アシスタントをやってみませんか?」と声をかけていただき、現場の雰囲気も気に入っていたため、お引き受けすることにしました。そこで先輩FDと出会い、会社の方針やビジョンにも触れる機会がありまして。代表の寺本のビジョンに共感し、「ここで働こう」と気持ちが固まりました。以後はアシスタントを経て、現在はアルバイトとして複数の現場を担当しています。
―最初は”偶然”だったのに、気づけばしっかりエントリーの一員になっているんですね。
これまでどんなお仕事をしていたのですか?
独身時代、最初に勤めたのは銀行でした。
窓口業務からスタートして、通常は1年目の社員はあまり動かされないのですが、私はなぜか休んだ人の代わりに後方業務などいろいろなポジションに入ることが多くて。穴埋めのような形であちこち回されて、すごく鍛えられた経験があります。
その後、結婚を機に転職し、健康食品の営業職に就きました。お店のイベントスタッフをしたり、店舗の業務全般を担当したりと、幅広く関わりました。最初は一般の営業職として入社したのですが、のちに管理職となり、最終的には営業部長としてチームのマネジメントも担いました。顧客管理もしていて、1300〜1500名ほどのお客様を担当しながら、いろんな業務を進めていました。気づいたら部長になっているなんて…そんなつもりじゃなかったんですけどね(笑)
自分でも“器用貧乏”なところがあるのかもしれないと思っていて…。でも一方で、やると決めたことに対しては、けっこう頑固なところもあって。一度引き受けたら、とことん突き詰めたいっていう気持ちが強いんです。そうやっていろんなことに挑戦していく中で、本当に多くの方からアドバイスをいただきながら、自分なりに一人立ちできるまで、一生懸命育ててもらったという実感がありますね。
ー今のFDとしてのお仕事のように、人を陰で支えるとか、一歩踏み出す後押しをするようなご経験はこれまでの仕事で培われたのですか?
実はボランティア活動を長く続けていまして、もう20年以上になります。
あまり表に出ることはなく、裏方として、結果よりも相手の笑顔や幸せを願って動いてきました。そんな思いが、私の根っこにあるのかもしれません。やっぱり、人と関わることや、誰かに喜んでもらえることが何より嬉しいんです。
―まさにFDのお手本みたいなお考えですね!
そのボランティアって、例えばどんな活動をされているんですか?
いろいろあるんですが、たとえば世界各地への募金活動をはじめ、音楽イベントなどで司会を務めさせていただいたこともあります。イベント会場の準備や運営に関わることも多くて、「これやってくれる?」と声をかけてもらううちに、自然と活動の幅が広がっていきました。
20年以上続けているので、経験も積み重なってきて、「これもできる」「あれも任せられる」と信頼をいただくようになりました。最近では、年齢的にも、前に立つというよりは、裏方として若い世代を育てていく役割を担うことが増えてきました。表に出たり裏方に回ったり、状況に応じて自在に動いています。
こうしたボランティアの現場って、今の派遣やスキマバイトの仕組みにもちょっと通じるところがあると思うんです。イベントなどで人手が必要になると、ボランティアで集まることも多いですが、もしそこに報酬が出るようになれば、さらに多くの人が参加するきっかけにもなるのかなとも感じます。でも、私自身は報酬の有無に関係なく、その場を支えること自体が楽しいんです。
関わるアーティストも、いわゆる有名な方というよりは、個人で地道に活動されている方が多いですね。イベントもだいたい200人規模の小規模なものが中心です。
―津川さんのエントリーでの歩みを教えてください
最初はアルバイトでアシスタントをしていました。はじめは点呼だけだったんですが、退勤時や入職時にスタッフさんと話すのが好きで、移動中のちょっとした時間にもいろいろとコミュニケーションを取っていました。
そうしているうちに、「アシスタントをもう一人増やそう」という話になって、「いい人がいたら選んで」と任されたんです。最初に3〜4人、すごくいい方を見つけられて、自然と“津川軍団”なんて呼ばれるようになりました。そこから、アシスタントという枠に収まらない動き方をするようになっていきました。
そのメンバーたちをまとめるうちに、「アルバイトとして本格的にやらないか」と声をかけてもらって。そこからは複数の現場を掛け持ちで、社員さんたちと一緒に応援に行くようになりました。
私は最初から“1人現場”が多くて、他の方のように社員さんがそばにいる環境ではなかったんです。なので遠隔でリーダーに教わりながら、かなり自由にやらせてもらえました。もちろんダメなことは「それはあかんやろ」としっかり指摘されましたが(笑)それ以外はすごく伸び伸びと。
だからこそ、過去の経験や自分らしさを存分に出せたと思っています。そういう環境だったからこそ、どの現場でも物おじせずにスタッフさんと向き合えるようになりました。
最初に細かく形を決められていたら、私はもっと縮こまっていたかもしれません。自由にやらせてもらえたことで、“津川流”を自然に発揮できたのが大きかったですね。本当に恵まれていたなと感じます。
―FDのイメージって、朝に駅や集合場所で待ち合わせて、初回の人にやり方を教えたり、エントリーのメンバーだけで朝礼をして指示を出したり、休憩を回したり、作業の様子を確認したり…と、ある程度一日の流れが決まっていると思うんです。でも普通のFDとはちょっと違う、“津川さん流”の関わり方があったと聞きました。どんなスタイルだったんですか?
そうですね、私はよく「土足で入ってくるタイプ」って言われます(笑)。自分ではそんなつもりないんですけど、自然と会話の中で「結婚してるの?」「お子さんいるの?」「どこ住んでるの?」みたいに、どんどん質問しちゃってて。もちろん、自分のことも話すんですけど。
ただ、あるとき「自分が幸せそうな雰囲気を出しすぎると、しんどくなる人もいるよ」と言われて。最初はピンとこなかったんですが、確かにいろんな事情の人がいる中で、自分のテンションや話し方が相手にとって負担になることもあるんだなって気づかされました。
それからは、相手の様子を見ながら「このテンションなら大丈夫かな」「このぐらいの距離感がちょうどいいかな」と、話し方や声のトーン、スピードを調整するようにしています。最初の2〜3ヶ月は、まさにその“間合い”をつかむ勉強期間でしたね。
―現場でスタッフさんと関わるときに、大切にしていることは何ですか?
やっぱり「相手を知ること」がすごく大事だと思っています。
作業のやり方ももちろん教えるんですが、やっぱり人間って向き不向きがあるじゃないですか。だから「この作業は得意そうだな」「ここはちょっと苦手そうだな」っていうのを見て、その人に合った教え方を考えるようにしていました。苦手だからダメ、じゃなくて、「どう苦手なんだろう?」「どうしたら苦手じゃなくなるかな?」と考えるんです。ちょっとしたアドバイスで苦手意識がなくなって、逆に良いところがもっと伸びることもあるので。
そうやって関わっていくうちに、そのスタッフさんが企業さまから「レギュラーで来てほしい」と言っていただけるようになったり、「エントリーの人って質が高いね」と評価していただけるようになったりする。そういう流れをつくっていきたいと思っていました。「できない」と思わせたくないんですよね。苦手なだけで、嫌いなわけじゃない。私も「これ無理」って思うことありますし(笑)。でも「苦手なだけだから、こうすればもっとできるようになるよ」っていう思考に切り替えてもらえると、その先にある“恐怖心”も和らぐんです。経験を重ねて苦手を克服していくと、今度はその方自身が、次の人にやさしく教えてくれるようになる。だから「これは向いてない」とか「ダメだよ」なんて決めつける言葉は、絶対に使いたくないって、いつも思っていました。
―育成や関わり方について、ご自身の経験から影響を受けていることってありますか?
そうですね、多分それは「子育て」が土台にあるんだと思います。私、子どもが3人いまして、上の2人は年が近いんですけど、そこから18歳離れてもう一人産んでいるんですね。今、上の子は40歳近くて、下の子は20歳。だから、同じ「親子」でも、育てている時代が全く違うんです。
時代ごとの価値観や考え方って、子どもたちから教わることが多いんですよね。それが今のFDの仕事に、すごく活きていると感じています。同じように育ててもうまくいかないこともあって、「世代によって伝え方や接し方を変えなきゃいけない」と日々感じています。Z世代と呼ばれる今の若い世代には、これまでと同じやり方では響かない。40〜50代の方に接するときと同じ調子でいくと、ズレが生じることもあります。
だからこそ、「この人はどんな人なんだろう?」「どう接するのが一番いいのかな?」と相手に合わせて向き合うことが大事だと実感しています。我が子であってもそれぞれ違う。だからこそ、スタッフさん一人ひとりとも、丁寧に向き合っていきたいと思っています。
―今のお話を聞いて、すごく納得感がありました。
ちなみに、津川さんが入られている現場では、経験者の継続率が約97%という驚異的な数字を維持されているそうですね。これはすごいと思うのですが、何か秘訣はあるんですか?
そうですね…特別なことをしている意識はないんですけど、ひとつあるとすれば「会話の続きをする」ことかもしれません。
派遣って、いろんな方がいらっしゃるじゃないですか。長く働こうと思ってる人もいれば、「今日だけのつもりです」っていう方もいます。最初はちょっとよそよそしかったり、「別に今日だけなんで」みたいな雰囲気の人も多いんです。でも私は、話した人の顔を覚えるのが得意なんです。名前はすぐ忘れちゃうんですけど(笑)、顔を見たら前に話した内容を思い出せるので、次に会ったときに「この前○○って言ってたけど、どうなった?」って“続き”から入るようにしています。
仕事のことだけじゃなくて、趣味の話や家のこと、悩みごととか、いろんな話をしていくうちに、向こうからも「あの話、こうなったよ」って話してくれるようになるんです。で、「次いつ入ろうかな」っていう会話が自然と生まれるようになってくる。
あと、うちの現場って、いろんな作業ができないと残業ができなかったりするので、まずはその人の得意なことから始めてもらって、自信がついたら新しい作業にチャレンジしてもらうようにしています。苦手な作業も、「できる?」って聞いて、ちょっとでもできたら「すごいやん!できてるやん!」ってめちゃくちゃ褒めます。すると「自分、できるかも」って気持ちになって、自然と残業にも対応できるようになってくるんです。
そうやって得意なことを軸に自信をつけてもらって、少しずつ“できること”を増やしていく。その積み重ねが、今の継続率につながってるんじゃないかなって思います。
―残業ができることを喜ばれる方もいるんですね。やっぱり、しっかり稼げるからでしょうか?
そうですね、でも「17時半で帰りたい」と最初に伝えてくれている方には、絶対に残業をお願いしないようにしています。主婦の方など、事情がある方も多いですから。企業側からは「15分でも残業できないか」と頼まれることもよくありますが、そこは板挟みになるんです。でも、事前のヒアリングで「これは無理」ということがわかっている場合は、無理にお願いしないと決めています。無理をさせると、その方が辞めてしまうので。
やりたい方にはしっかり任せて、やりたくない方には無理をさせない。その線引きをしっかりすることで、スタッフの安心感につながり、定着率にもつながっていると思います。
企業側の立場を理解しながらも、しっかりスタッフ側の立場にも立つ。両方のバランスを大事にしているからこそ、現場の方々にも安心して働いてもらえているのではないかと思っています。
―なるほど。例えばスマジョブなどで人を採用する際、「梱包」などの作業ごとに枠を分けて募集しているんですか?それとも、一つの現場として人を集めて、あとから津川さんが配置を決めているんですか?
後者ですね。一日の中でも状況が変わるので、最初から「この人はこれだけ」というふうに決めることはしません。その時間帯ごとの忙しさに応じて、「この時間はここに何人、次はここに何人」と配置を変えていきます。なので、最初はどの業務も一通りできるように、まず全部覚えてもらうんです。で、「今日はここが終わったから帰っていいよ」「残業できる人はこっちお願いね」というように、その日の状況に合わせて柔軟に動かします。
最終的には、どのスタッフもどの業務もできるように育てていく、という方針でやっています。
梱包やピッキング、仕分けなど、作業は全部で7〜8種類ほどあるんです。みんなが全部できるようになると、現場としても面白くなってくるんですよ。
それと、職場の環境もすごくいいと思います。現場には音楽が流れていて、それが本当にいいんですよね。たとえば最近の音楽も流れたりして、ジャンルもさまざま。だから、いろんな世代の人がいても、自然とリラックスできる空間になってると思います。音楽の影響って大きいなって思います。実際、それに救われてる部分もあると思いますし、「あ、これめっちゃいい曲やん!」って、ちょっとした会話のきっかけにもなるんですよね。
―スタッフさんとのエピソードで印象に残っていることは?
実は、以前、現場のスタッフさんで、引きこもりのお子さんを持つお母さんから相談を受けたことがありました。そのお子さん、最初は外に出るのも人と話すのも難しい状況だったんですが、少しずつ働くことに慣れてもらえるよう、私の方でアシスタントとして受け入れることにしたんです。現場での簡単な作業から少しずつ始めてもらったんですが、関わっていく中で、「あ、この子、光るものがあるな」と感じる瞬間が何度かありました。もともとの性格や素質が原因ではなく、ただいろんな事情が重なって、そうなっていただけなんだなと。3カ月、半年とかけて、試行錯誤しながらですが、少しずつ自信をつけていってくれて。最終的には、夜勤の現場でリーダーまで任せられるようになったんですよ。その後、無事に就職もされて、完全に社会復帰されたんです。本当に嬉しかったですね。
こういったケースがもう一人いまして。別のお子さんですが、その子も最初はお母さんと一緒じゃないと外に出られないような状態でした。でも、お母さんと一緒に現場に来て、少しずつ環境に慣れていって。やがては1人で京都の現場まで行けるようになったんです。この前、私の担当現場で急遽人員が足りなくなって、久しぶりにその子に「来れそう?」って電話したら、「行きます!」って。来てくれて、しっかり働いてくれている姿を見たときは、本当に嬉しかったです。
―最後に、津川さんにとってエントリーでのFDの仕事とは?ひと言で言うと何でしょうか?
仕事を通して、その人の幸せへと続く道を一緒に歩んでいくことです。共に歩みたいと思っています。
